ロボットと趣味と自堕落と

ロボットの事なんか一言も書いてない

『独創はひらめかないー「素人発想、玄人実行」の法則』を読んだ

どういう本か

工学博士の金出武雄先生による、様々な研究者などとの交流や過去の経験から得られた「思考法*1」やその精神について述べた本。
世間一般にある「ハウツー本」や「自己啓発本」とはまた違った感じの本。

なぜ読んだか

数年前に本書を購入して、積読してたのだけれど、ここしばらく研究が行き詰まり、いいアイディアも出てこないので、「何か書いてねぇかな」という気分で手に取った次第です。
「気が向いたから」と言えばそれまでである。

金出武雄先生について

Wikipediaでも見てください。
「ロボット研究している人で金出先生を知らない人はモグリ」なんて言われるぐらいすごい人(だそう)です。
(ちなみに、僕は学部生の頃に研究室のボスから教えてもらうまで知りませんでした…)
OpenCV触った事ある人ならば、cv::calcOpticalFlowPyrLK()という関数を見た事があるかもしれないけれど、この関数で使われているLucas-Kanade法の考案者。
An iterative image registration technique with an application to stereo vision

本書の構成

4章から成っており、章ごとに小テーマが存在する。

1章

ここでは、「素人発想、玄人実行」という考え方について著者が過去に行ってきた研究から、半ば帰納的に「こういう思考・精神でいるとよい」ということについて述べている。
比較的「ハウツー感」のある章。

2章

2章では、コンピュータと人間を比較しながら、「問題解決能力とは何か。どのように獲得されるのか。」について述べている。また、問題解決能力と結びつけて思考力や記憶力についても述べられている。
メタな感じの内容が書かれている。

3章

成果を発表しても伝わらないことには意味がない。
ここでは、「説明する・発表する」ということに焦点を絞り、どのような発表方法が良いのか、論文と口頭発表のスタンスの違いや、英語力などについて著者の考えが述べられている。
本書で一番「ハウツー感」が高い章かもしれない。

4章

「組織の意思決定の早さ比較」について日本とアメリカを対比して、その精神性について述べている章。
上記3章とは少し毛色が異なり、過去のプロジェクトや、CMUの風習などを用いて比較を行っている。
よくある「日本ダメ。アメリカ万歳!」的な中身のない文章とは異なる。

各章の感想

  • 1章
    解決したい問題について、いかに「うまく単純化」し「良いシナリオを考える」かという話は改めて言われて印象に残った。
    素人のように(素直に)考えて、玄人のように(精密に)実行する」という考え方は、非常に重要であると共感できた。 というのも、僕は変なところで心配性であり、"余計な事"を非常によく考えてしまう癖がある。研究では細かい点が理論的でない事が気になってしまい、多くの時間を取られて失敗に終わる事がある。 KISS -"Keep It Simple, Stupid."というアプローチを大切にしたい。
    また、物事がうまくいかないときに、いかに「とりあえず最後までやっちゃおう」という気分に切り替えられるかが、物事を進める上で重要なのだなという事がわかった。

  • 2章
    問題解決能力がどのように養われるかという点について、日本式教育しか受けていない僕からすると、教科書の構成の違いなどの話は驚きだった。
    また、思考力や判断力は問題解決によって鍛えられるが、記憶力も重要な要素であるという話は納得がいった。
    確かに、毎回イチから全検索するよりは、パターン類似度の高い情報を抽出する方が効率は良いよね。

  • 3章
    おそらく、本書を読んだ動機とは別で、一番読みたかった内容かもしれない。
    伝わる文章やスライドを作るのが非常に苦手な僕にとっては、かなりためになる章だった。 「起承転結」や「流れを意識する」なんてことはもちろんわかっている。わかっているのだが、実際にはうまく書けない。
    そういう点について、読者や聴衆の関心度の変化を意識することでどのように書くと良いかという話が出たのは良かった。
    一方で、口頭発表におけるスライド構成については、本章の内容を意識しながらも、発表環境に合わせて変えるべきだとも思った。*2
    あと、英語に対する認識や訓練方法が金出先生と同じだったのは、肯定された気分になって非常によろしかった。

  • 4章
    「意思決定は早いに越したことはない」「責任逃れるために主張を控えるよりも、主張してしくじったら責任取ればいい」という感じの内容。 正直あまり実感できなかったが、昨今の「ニッポンすげぇ」論に対する警鐘としても受け取れる。*3

全体を通した感想

久しぶりに「読み物」としての本を読んだのもあって、一気に読めました。 また、読む前に抱いてた「研究うまくいかね~~~~~」みたいな感情が、いい感じに消化*4できた気がします。 非常に面白く、読みやすい内容なので、何かに行き詰まってる人や効率的な思考プロセスを得たい人は読んでみると良いと思います。

*1:むしろ哲学と言って良いような…

*2:卒/修/博論審査会でTEDみたいな発表は誰も求めていないのである。

*3:というかそういう内容が書いてある

*4:「昇華」ではない